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全数検査とは?適しているケースやメリットを製造業の事例とあわせて紹介

全数検査とは?適しているケースやメリットを製造業の事例とあわせて紹介

品質管理で重要となる検査ですが、その中でも全ての製品を検査する全数検査を実施できればトラブルのリスクを最小限に抑えられます。本記事では、全数検査を実施するメリット・デメリットや、全数検査が適しているケースについて解説します。

多くの製品を世に送り出す製造業において、製品の品質をいかに担保するかは重要なテーマです。近年では、製品の不具合発覚による大規模なリコールがニュースで取り上げられる、あるいはSNSによって不具合が拡散され企業の信頼を損なうといった場合もあり、製造現場は品質管理の要となる検査に対して細心の注意を払わなければなりません。

そのような検査において確実性の高い方法としてあげられるのが、製造物全てに対して検査を実施する「全数検査」です。そこで本記事では、全数検査のメリット・デメリットや、製造業における全数検査の事例を紹介します。

全数検査とは

全数検査とは製造現場の外観検査において、対象となる製品を一つ残らず全て検査する方法です。「検査対象となる製品の数」に焦点を当てた検査の分類で、全数検査の他に抜き取り検査・無検査といった種類があります。

具体的にはある製品を50個製造する場合、50個すべての製品をチェックするのが全数検査、50個の製品の中から事前に設定したサンプル数(検査対象の個数)の製品をランダムに選出して検査する場合が抜き取り検査、そしてそもそも検査を実施しない場合が無検査と呼ばれます。

全数検査と抜き取り検査の違い

抜き取り検査は前述の通り、製品の一部をサンプルとしてピックアップし、品質に問題がないか、規格に沿っているかを確認する方法です。ピックアップされた製品を一定の基準のもとで検査し、検査結果によってロット全体の品質と出荷の可否を判断します。

抜き取り検査で用いるサンプル数は、JIS(JIS Z 9015)や検査表AQL(Acceptable quality level)など一定の規格にもとづいて決定しますが、その中で出荷基準に満たない不良品が一定数検出された場合、当該ロットの製品は全て出荷できないと判断します。

抜き取り検査は検査する製品数を限定する分、手間やコストが少ない方法ですが、全数検査よりも精度は劣る方法です。

 全数検査抜き取り検査
検査方法製品すべての検査する製品からサンプルを一定数ピックアップして検査する
精度高い低い
コスト高い低い
検査の手間大きい小さい
判断基準製品1つ1つを個別に判断サンプルの状態を見てロット全体の出荷を判断

全数検査を実施する3つのメリット

全数検査は抜き取り検査と比較するとさまざまな点でメリットがある方法です。ここからは、全数検査を実施する3つのメリットを解説します。

品質保証の強化と顧客満足度向上

全ての製品が検査対象となることから、製品ごとの品質のばらつきが少なく、判断基準そのものに誤りがない限りは高い品質を保証できます。高品質な製品は顧客満足度の向上に寄与し、リピーターの獲得にもつながるでしょう。

また不良品が少なければ、クレーム対応などカスタマーサポート業務の工数も削減できます。その分、お客様からの問い合わせ対応を充実させることで、顧客満足度に良い影響を与えることは間違いありません。

不良品流出のリスクの抑制

全ての製品をもれなく検査することで、出荷基準に満たない不良品の流出を最小限に抑えられます。このことは、短期的にはリコールやクレーム対応など売上・利益に関わるリスクを抑制する、長期的には不良品の流出によって納品先や第三者からの信頼を失うリスクを予防できるといった形で、事業へと貢献します。

また、裏を返せば「良品は良品として正しく判断できる」とも言えるため、不良品流出のリスクを抑制しつつ歩留まりの改善が期待できます。抜き取り検査ではサンプルを不良品と判断した場合、仮にロットの大部分が良品であっても総じて「不良品」と判定しなければなりません。

製造に関わるデータを収集・活用

全数検査の実施による副次的な効果として、製造品や製造工程にまつわるデータを正確かつ大量に蓄積できる点も見逃せません。膨大な製品を検査する中で、品質や不良品の傾向、設備トラブルの予兆がデータから読み取れる場合があります。これによりさらなる品質向上や製造ラインの安定稼働が実現可能です。

また検査を繰り返すことで、製品に求めるべき品質や検査基準もより正確なものへと見直すことができます。データから品質の改善余地を見出すとともに、検査の基準もより正確・厳格なものとする過程を繰り返すことで、より高い品質を追求できるでしょう。

全数検査を実施するデメリット

全数検査の主なデメリットは、検査の実施に時間とコストがかかる点です。コストがかかる要因は製造ラインや製品によってさまざまですが、主に検査員の人件費と設備費用があげられます。

全数検査はすべての製品をチェックするため、極端に製造数が少ない業態を除いてかなりの時間と労力を要する作業です。そして検査自体に不手際があっては本末転倒だと考えると、検査員は製造の熟練者であることが求められ、誰にでも務まるものではありません。全数検査には、量と質の両面で多大なリソースを費やす必要があります。

また、カメラやセンサーを用いて検査を自動化する技術も登場していますが、検査システムや測定器の導入に初期コストが発生しますし、設備の運用保守に継続的なコストが必要です。製品によっては目視の検品が不可欠な場合もあり、これらの技術はまだ普及しているとは言えません。

しかしながら昨今では、AIを用いた検査システムなど人の目に劣らない精度で検査を自動化する設備やシステムも生まれているため、全数検査のデメリットは徐々に払拭されつつあるのではないでしょうか。

全数検査が適している3つのケース

全数検査を実施すべきか否かは製品の数や性質、単価などによって左右されるため、全数検査を実施すると採算が合わない…といった場合も珍しくありません。企業によって向き不向きが分かれる検査方法ですので、ここからは全数検査が向いている3つのケースを解説します。

不良発生時の影響度が大きい場合

不具合の発生が極めて大きな影響を与える製品に関しては、全数検査の実施が適切です。医療機器や自動車の安全装備が代表的ですが、これらの製品は万一でも不良品があるとユーザーの生命に重大な危険をもたらす可能性があります。

消費者保護の観点から検査を徹底すべきであることは言うまでもありませんが、企業としての信用の失墜は免れませんし、コスト的な視点で考えてもそのような場合に生じる損失は計り知れません。

製品の単価や実施の費用対効果が高い場合

全数検査は単価が高い製品の検査においてしばしば用いられます。なぜなら高額な製品の場合、全数検査のコストや労力を差し引いても十分な費用対効果が期待できるためです。基本的に製品の単価が高い、生産量が少ないほど全数検査が適しており、製品の単価が低い、生産量が多いほど抜き取り検査のメリットが大きくなります。

また、不良が発覚した際にかかるリコール等のコストを、全数検査のコストが下回るかどうかも実施の有無を判断するポイントです。もちろん、リコール等のコストの方が安いと判断される場合でも、企業の信頼性を損なうリスクを勘案し全数検査を実施する考えもある点は押さえておきましょう。

全数検査に手間がかからない場合

シンプルな構造で検査が簡単にできる製品は、全数検査に向いています。見た目や形で状態を判断しやすい製品は、目視による検査、機械での検査がいずれも容易なため、全数検査がさほど大きな負担となりません。結果として、コストや工数に対して品質を保証できるメリットが大きいと判断されやすい傾向にあります。

製造業での全数検査事例

ここからは、全数検査の実施方法の具体的なイメージを持ってもらうため、製造業での全数検査事例を3つご紹介します。

株式会社アーレスティ

愛知県豊橋市で鋳造方式のエンジン部品・トランスミッション部品製造を主な事業とする株式会社アーレスティではその製品の特性か、5,000〜10,000の製品に1つ生じるかどうかの不良を防止すべく、X線による全数検査を実施していました。

しかしながら、全ての製品に識別コードを付与し、製造工程ごとに用いた機械や品質を見える化することで「不良の可能性がある」製品を絞り込み検査する、不良品と同じ機械を用いて加工した製品を重点検査するといった動きが可能となりました。結果として検査の省人化、精度の維持向上はもとより、検査データを活用して製造プロセスを最適化するところまでを実現しています。

参考:第1部第1章第2節 人手不足が進む中での生産性向上の実現に向け、「現場力」を再構築する「経営力」の重要性:2018年版ものづくり白書(METI/経済産業省)

アスカカンパニー株式会社

兵庫県加東市でプラスチック製品の開発・製造・販売を担うアスカカンパニー株式会社は、プラスチック成形機のログデータ解析と、カメラデータの解析により全数検査を実施しています。ログデータ解析により設備側の不具合を予期あるいは早期発見し、製品側の不具合は製品画像の解析により発見することで、不良クレームゼロを実現しました。

この事例のポイントは全数検査の効率化はもちろん、設備の稼働監視を併せて実施することでより高い品質管理効果を得られている点です。検査による不良品の判別はもちろん重要ですが、それだけでは発生の根本的な原因を発見し、対策することはできないところ、設備稼働データの解析によりそもそもの不良品の発生率の抑制にまで取り組んでいます。

参考:経済産業省 近畿経済産業局 AI導入Navigator(2019) p.28-29

株式会社ノーリツ

ここまでの事例は全数検査を自動化することで負担の軽減を図っている事例であり、全数検査を実施・検討する企業の多くはデジタル技術の活用を前提としています。一方で住宅設備機器の製造に携わる株式会社ノーリツでは、あえて社内資格を持った検査員の五感による全数検査を重視し、実施しています。

機械では判別困難な要素が、長期使用時の安全性に影響しうることから、製品の安全を最優先に考えた結果であり、一定の教育・研修や資格取得により十分なスキルを身につけた検査員によって全数検査の精度が担保されています。

参考:経済産業省​ ​令和4年度 第16回製品安全対策優良企業表彰 受賞企業一覧 p.5

全数検査の導入には検査工程の見極めが重要

全数検査は不良品の防止や品質向上など恩恵が多い一方、実施にはコストと労力がかかります。導入には、検査を含めた製造コストと販売価格の間で利益バランスを取れるかが判断のポイントと捉えられるでしょう。

ただし全数検査を実施する場合も、そもそもの検査基準やチェック項目が正確でなければ、労力に見合った効果は期待できません。検査基準の設定はベテラン従業員の経験や過去の製造データ、不良品の傾向などさまざまな要素を考慮する必要がある極めて難しい作業です。むやみに基準を厳しくしてしまっては歩留まりが悪化し、生産性が低下すること可能性があることも注意しなければなりません。

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