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スマートグラスを使って「造園技術」の遠隔支援と報告書作成業務を効率化〜ITトレンドEXPO2021春レポート

スマートグラスを使って「造園技術」の遠隔支援と報告書作成業務を効率化〜ITトレンドEXPO2021春レポート

今回は、経営者やDX担当者の悩みに寄り添うべく開催された大型展示イベント「ITトレンドEXPO2021 spring」(2021年3月10日~ 12日開催)より、アウトソーシングテクノロジーのARソリューションを活用して現場改革を進めていった株式会社日比谷アメニスの事例について、深掘したセッション内容をご紹介します。

「DX推進の成功率は僅か5%」

経産省が2018年9月に発表した「DXレポート」から2年強を経て、2020年12月末に発表された『DXレポート2』では、約95%の企業がDXにまったく取り組んでいないか、もしくは散発的な実施に留まっているに過ぎない段階であることが明らかになりました。

「効果が見えない」「人材がいない」「現場の理解が得られない」といった声が依然として多い中、企業は何から着手をすればよいのでしょうか。

今回は、そんな経営者やDX担当者の悩みに寄り添うべく開催された大型展示イベント「ITトレンドEXPO2021 spring」(2021年3月10日~ 12日開催)より、アウトソーシングテクノロジーのARソリューションを活用して現場改革を進めていった株式会社日比谷アメニスの事例について、深掘したセッション内容をご紹介します。

登壇者プロフィール

矢嶋 依佐夫(やじま いさお)
株式会社日比谷アメニス
取締役 総合経営企画室長

千葉大学園芸学部造園学科卒。1988年、株式会社日比谷花壇造園土木(現:株式会社日比谷アメニス)入社。現在、取締役総合経営企画室長兼株式会社エコルシステム代表取締役。

木村紀彦(きむら のりひこ)
株式会社アウトソーシングテクノロジー
イノベーションプラットフォーム部 課長代理

人材紹介企業を経て、2019年にアウトソーシングテクノロジーに入社。2020年からは顧客のイノベーション創出のために開設された新規部署イノベーションプラットフォーム部 インダストリーDX課に課長代理として配属。現在は、主にARソリューションに関する新規顧客開拓を担当。

人材支援と運用・導入支援の両軸でDXを推進するアウトソーシングテクノロジー

アウトソーシングテクノロジーは、R&Dに特化した機械・電子・電気の技術者の特定派遣および開発請負をメイン事業として展開している企業です。『働くで「みらい」をデザインする』をキーワードとして、世界中のテクノロジーと雇用技術によってイノベーションを加速させることを大きなミッションとしており、これまで製造業や建設業、物流業をはじめとするさまざまな現場を抱えた企業を中心に、人的およびシステム的な支援をしてきました。

そんなアウトソーシングテクノロジーでは、大きな柱の一つとして、DX関連事業を積極的に展開しています。具体的には、デジタル技術とビジネスの両輪からDX人材を活性化させる「DX人材事業」と、実際の運用や導入支援を行う「DX支援事業」に大別され、これまで培ってきた豊富なDX経験人材と先端テクノロジーを活用しながら、製品の選定から導入開発、運用までをワンストップソリューションとして提供しています。

具体的なDXテーマと課題、およびその解決内容のポートフォリオをまとめたものが、以下となります。

本セッションで紹介されたのは、この中でも現場業務の省力化やレガシー業務の見直しなどをサポートするAR/MRを使ったソリューション。同社では以下3点のスマートグラスおよびMRグラスを活用したソリューションを展開しており、さまざまな現場作業の支援を行なっています。

今回はこの中でも、「TeamViewer フロントライン」(画像左の製品)を活用した事例として、建設業である日比谷アメニスのDXプロジェクトが紹介されました。

なお、スマートグラスについてご存知でない方は、以下の記事をご参照ください。
スマートグラスができることは?単眼式と両眼式の違いや、代表的な製品についても解説

また、MRグラスについても詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
MRとは?AR・VRとの違いや活用事例・デバイスを解説!

業界、ひいては日本の課題がそのまま自社課題となっている日比谷アメニス

日比谷アメニスとは、花や緑、環境を基軸にして、快適空間を創造していく造園建設企業です。日本全国に視点を有しており、造園施工から屋上緑化、壁面緑化、室内緑化、指定管理者など、造園などに関わるさまざまな事業を展開しています。

特に、2004年に都市公園では全国初となる指定管理者として企画運営・維持管理に携わって以来、全国各地の指定管理者事業やPFI事業等に取り組んでおり、2020年4月時点では、同社グループがマネジメントに携わる公共施設は、全国で39か所288施設にものぼっています。

そんな日比谷アメニスでは、主に以下の3点が、業界を通じた大きな課題として横たわっていました。

  1. 労働力の減少、熟練者の引退
  2. コロナによる働き方の変容
  3. 現場作業以外の業務工数

労働力の減少については、現在の人口動態に鑑みていわずもがなでしょう。これに拍車をかけて、造園業は「植木」という生き物を扱う分野なので、経験や技術を問うものが多く、熟練者の引退は非常に重要な課題となっています。

また造園建設業のような現場ありきの職場の場合、コロナ禍を契機にしたテレワークなどのニューノーマル対応は、非常に限定的といわざるを得ません。これについて、日比谷アメニス 取締役 総合経営企画室長の矢嶋依佐夫氏は、以下のように コメントしています。

「基本的に私たちの業界は、施主様が止めなければ工事を続行するという、業界特有の背景があります。なので、コロナ禍であったとしても、現場業務がストップする訳ではありません。

テレワークについてはよくいわれますが、設計やコンサルについては可能なものの、現場や営業シーンでは、なかなか難しい状況があるといえます。」(矢嶋氏)

オフライン時でも使える「TeamViewer フロントライン」を採用

このような状況の中で、同社が着目したのが、スマートグラスによる現場支援ソリューションの導入でした。

選定されたのは、先述したとおり、アウトソーシングテクノロジーが提供する「TeamViewer フロントライン」です。こちらはスマートグラスを使ったソリューションとして、倉庫内や物流現場などでのピッキング業務などの支援をはじめ、組み立て工程や品質チェックなどの支援、複合機などのサービスや保守の支援、そしてリモート支援など、さまざまな領域での現場サポートを想定しています。

これについて、アウトソーシングテクノロジー イノベーションプラットフォーム部の木村紀彦氏は、以下のように製品の特徴をあげています。

「特に、20種類以上の豊富なリモート通話機能が実装されているので、柔軟な遠隔支援が可能で、オフライン時でも有効機能するワークフローによって、画面表示や作業記録をシームレスに行える点が、大きなメリットとなっています。」(木村氏)

コロナ禍で移動が制限される中、遠隔地にいる現地担当者と東京の担当者が情報共有できるツールとして、リアルな目線で確認・指示ができることから、日比谷アメニスではTeamViewer フロントラインを採用しました。

遠隔支援と報告書作成の両軸でスマートグラスを活用

日比谷アメニスによるTeamViewer フロントライン活用方法としては、大きく2つあります。

まずは「遠隔支援」です。映像付きの遠隔通話を通じて、ARマーカーを用いた指示を行うというものです。

これによって、たとえ現地にいる人間が知識の少ない初級者であっても、上席者が本社から緑地管理現場の現地の状態を確認し、遠隔から支援できるというわけです。

そしてもう一つが「報告書の作成」です。

建設業特有のものとして、色々な施工や管理をする中で、施工前・施行中・施工後の状況写真を取るのが、重要な業務のひとつになります。

「昔でいえばフィルムカメラで撮影し、場所や作業内容を書き加えた上で施主に納品するというのが、監督の大きな仕事のひとつでした。これがとても大変なんです。最近ではデジタルカメラを使うことで随分と楽になりましたが、今度は撮影場所や内容を“何枚も”撮影するケースが多くなって、今度はそれをパソコンに入れて、どこのシーンのどんな作業かの説明を入力していくのが、大変になりました。特に、撮った人でないとどこの写真かわかりにくいので、結果として撮影者がそのまま報告書作成までやることになり、大変な事務作業量となっています。」(矢嶋氏)

これに対して、スマートグラスのカメラ機能を使って作業報告書を作成することで、植栽管理の作業報告書を現場で全て作成できるようになりました。

「スマートグラスを現場に導入することで、映像精度がしっかりとあれば、設計者が現場担当者に同行せずとも判断できるようになるので、地方でのリサーチの際などで、移動時間を含めた各種コストの削減を行うことができるようになりました。

また、先ほどお伝えしたような報告書作成業務においても、スマートグラス経由で撮影して現場で作成することが可能になったので、これについてもコスト削減を実現することができています。」(矢嶋氏)

各種課題は、デバイスの普及にともなって解消されるはず

一方で、最新技術を現場に導入するにあたっては、まだまだ課題も多いといいます。

まずは技術面の課題として、通信環境があげられました。スマートグラスでリアルタイムで映像付き遠隔通話を実現しようとすると、4Gの場合だと映像が乱れたり、細部が見えにくい状況がどうしても発生します。

樹木の畑は山奥などにあることも多く、圏外のところも多いので、5G通信網が全国津々浦々で整備されないと、場所を問わずストレスのない遠隔通話を実施するのは、まだまだ厳しい部分があるといえます。

またコスト面の課題として、確かに現場作業のコスト削減には繋がったものの、スマートグラスやAR/MRデバイス自体がまだ普及期に至っていないことから、デバイスそのもののイニシャルコストや、ソフトウェアなどのランニングコストが依然として高いという点も挙げられました。

さらに、非日常であるデバイスを使った業務として、現場からは「恥ずかしい」という声も上がっているといいます。具体的には、たとえば音声で操作する様子を周囲に見られるのに抵抗感がある、とのことです。

これらの列挙された課題感について、木村氏は以下のようにコメントしています。

「確かに、現時点では技術の導入期として課題化することも多いですが、一方でベテランでも若い方でも操作性についてはスムーズだったとのことで、技術的な普及にともなって、時間が解決するだろうと考えております。」(木村氏)

DXポテンシャルの高い組織文化が、診断で明らかに

なお、アウトソーシングテクノロジーでは、クライアントがDXを進めていく上での⻑所・短所を 「推進力」と「障壁」として評価して、 各社がDXプロジェクトを円滑に推進するポイントをフィードバックする「DXポテンシャル診断」を実施しています。

日比谷アメニスについてもこのDXポテンシャル診断を実施しており、以下の通り、組織文化、人材・教育、そしてテクノロジーの3点において、DXポテンシャルが高いという診断結果が出されていました。

これに対して矢嶋氏は、DXについては、まだ社内の定義づけとして統一したものがないものの、業界として必要不可欠な取り組みだと強調しました。

「造園業界全体でもいえることですが、DXは他者との競争優位などといった文脈ではなく、労働力の減少や技能継承のために必要不可欠な取り組みになるといえます。花と緑をいかに次世代へと残していくかを考えるにあたって、DXは必要不可欠。そのためにも、いろんな課題をクリアしていかないことには、DXは実現しないと感じます。」(矢嶋氏)

以上の取り組みを経て、日比谷アメニスでは、DXにおける今後の展望として以下の3点を掲げています。

「まずは社内に残るアナログ業務を早急にデジタル化していき、並行して社内人材の情報教育も必要だと捉えています。また弊社では、造園技術や造園緑地マネジメント技術に関するノウハウを多く蓄積しており、産学連携にも取り組んでいるので、今後は熟練者の経験則をデジタル化してくことも必要だと考えています。そして最後は、事業そのものの高度化です。国交省が進めるi-Construction[※1]など、国や自治体が進める各種施策としっかりと連動させながら、業界全体で花と緑の技術を残していくことが必要だと感じています。」(矢嶋氏)

[※1]i-Construction(アイ・コンストラクション)とは・・・ICTの活用などの施策を建設現場に導入することで、建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す取り組みのこと

本来的には、リテラシーが低い人でも使えるのがDXのゴール

なお、当日はセッション参加者からの質問も寄せられました。ここでは2つのご質問への回答の様子もお伝えします。

質問1:造園業とDXという組み合わせが意外だったのですが、これはトップの意識が強かったから実現したのでしょうか?また、DXを進める上で最も大変だと感じたことは何でしょうか?

「トップの意識はもちろんですが、他にも、若い現場担当者を中心に、いろいろなツールを使えば解決できるのではないかという意識を持っていたことも大きいと思います。なので、現場のフィールドで新しい取り組みができる土壌があったのだと思います。

また大変だと感じた部分については、やはり社内外との調整でしょう。造園建設業は、それこそ大小さまざまな企業があるので、情報化についていけるところとそうでないところが混ざっています。なので、協力会社さんの状況を把握するのはもちろん、ゼネコンさんや施主さんの希望にも応えねばならないので、その辺りは非常に難しいと感じています。もちろん、業界全体でデジタルシフトしていくのであれば、大きな効率化が実現するとは思います。」(矢嶋氏)

質問2:ITリテラシーが高い従業員ばかりではない場合でも、DXはできるものですか?

「たとえば音声操作って、本来的にはキーボードを打つよりも簡単なはずです。その間の部分が、今はデジタルツールに詳しい人がいないと難しい状況ですが、そこがシームレスに動くようになれば、リテラシーの低い人であってもスマートグラス などを使えるようになると思います。」(矢嶋氏)

「導入の時は確かに高いことに越したことはないですが、本来は、リテラシーがない方でも使えるということが、DXのゴールのはずです。今は途中段階として理解しつつ、より現場で浸透させながら、ITリテラシーがなくても使えるようなDXの流れを作っていかねばならないと思っています。

ちなみに日比谷アメニス様では、それこそスマートグラス をかけながらコマンドを読み上げるだけの仕様にしています。覚えることなく、表示されているコマンドを読み上げるだけで良いので、今の段階でも、たとえば年配の方でも使いやすいものになっているのではないかと感じています。もちろん、今後はさらに使いやすくなっていくだろうと思っています。」(木村氏)

以上のセッションから、木村氏より、最後に締めのコメントがなされました。

「今お話があった通り、DXプロジェクトには正解がありません。特に新しい技術には実績がまだ多くないため、PoCやトライアンドエラーを通じた実験的な取り組みが必要となります。またDX人材の確保のために、社内教育や流動化環境の整備も必要ですし、DXの足かせとなるレガシー業務の見直しも、並行して進めていく必要があります。だからこそ、そのような取り組みを円滑に進めるための組織文化が必要だといえるでしょう。」(木村氏)

TeamViewer フロントライン × Mobile Workstation × AR匠

今回はレガシー業界のDX事例として、アウトソーシングテクノロジーのARソリューションを活用して現場改革を進めていった、日比谷アメニスの取り組みを紹介するセッション内容をお伝えしました。遠隔通話と報告書作成という2軸での業務効率化を実現するものとして、引き続き、PDCAを通じた業務改善のフィードバックループが期待されます。

今回はARソリューションの中でもTeamViewer フロントラインにフォーカスしてお伝えしましたが、アウトソーシングテクノロジーではこの他にも、サーバ不要で複数のAPPをマルチウインドウで表示できるスマートグラスソリューション「Mobile Workstation (Augmentalis)」や、空間の3Dモデルを5分で作成し、位置情報を基に写真等を記録&表示して3D空間レイアウト干渉チェックもできるHololens2を使ったソリューション「AR匠」などを提供しています。

上記のみならず、現場作業を伴う業務のサポート領域でさまざまな事例を展開しておりますので、AR/MR領域や、企業全体のDXでお困りの場合は、ぜひアウトソーシングテクノロジーまでご連絡ください。

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(取材/文:長岡武司)

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