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Ubimaxの日本進出は“聖杯=最終的なゴール”を求める過程、現場作業者をDXの中核にしたい

Ubimaxの日本進出は“聖杯=最終的なゴール”を求める過程、現場作業者をDXの中核にしたい

現場作業者向けARソリューションを提供するUbimaxが日本に進出。米Ubimax社のCEOであるパーシー・ストッカー氏にインタビューを行いました。ときに笑顔で気さくに、ときに熱く真剣に語るストッカー氏は、日本市場をどう見ているのか? その内容は興味深いものでした。

Ubimax(ユビマックス)を率いる共同創業者のパーシー・ストッカー(Percy Stocker)氏が2020年2月に来日。「ARソリューションの最新動向セミナー」に登壇して同社サービスを紹介するとともに、日本での市場拡大のため、さまざまな企業と打ち合わせを行っていました。そのようなストッカー氏に、Ubimax創業の背景、日本進出の経緯、現時点での手応えや今後の展望などを語っていただきました。

スマートグラスによるARで、現場を支援するUbimax

Ubimaxは、製造業や流通業の現場における、情報伝達、業務ノウハウの蓄積・伝承、マニュアルのデジタル化/リアルタイム化に特化したサービスを展開する企業です。

Ubimaxのサービスは、ARを活用したソリューションになっており、現場作業者がスマートグラスを装着するだけで、ワークフローの実行、現場状況の報告、マニュアルの確認、遠隔による指示のやりとりなどをハンズフリーで行えるようになります。表示されるコンテンツは、音声で操作可能。現場のセンサー情報の取得にも対応しています。一方、情報を提供する側も、ビジュアルベースのUIで、簡単に作業者側に表示するコンテンツを構築できます。

米Ubimax のCEOのパーシー・ストッカー氏

Ubimaxのソリューションは、「X-PICK」「X-MAKE」「X-INSPECT」「X-ASSIST」の4つのサービスで構成され、現場のニーズに応じて、柔軟な組み合わせを可能としています。

・X-PICK

 ピッキング業務支援:コマンド指示、RFID・バーコード・QRコードのスキャン、配置の確認 など

・X-MAKE

 製造工程支援:サイズ確認・物品確認での工程チェック、マニュアル表示 など

・X-INSPECT

 生産管理:温度・振動・圧力センサーの情報を表示、機器メンテナンスの支援 など

・X-ASSIST

 作業支援:熟練者が遠隔で現場作業者に指示 など

Ubimaxのソリューションは「X-PICK」「X-MAKE」「X-INSPECT」「X-ASSIST」の4つで構成される

インタビューの冒頭、ストッカー氏は、「私たちが目指しているのは、現場作業者をDX(デジタル変革)の中核に据えるということです」と切り出しました。

日本の企業にもARの価値を届けたい

――Ubimaxは、そもそもどういう成り立ちの企業なんでしょうか?

ストッカー(以下敬称略):私は「エンタープライズ企業のなかに、足りていない部分がある」と感じ、Ubimaxを創業しました。私はもともと企業の戦略コンサルティングを務めていましたが、そこで、最前線で働く現場作業者がデジタルの恩恵を受けていないということに気づきました。たとえば、彼らはPowerPointの資料を現場の作業を行いながら見ようとしても見ることができないのです。そこで彼らにデジタルなインフォメーションを届けるには、なにかしら従来とは異なる手段・環境が必要だと考えました。

現場作業者なら、机に向かってパソコンを見る、モバイルデバイスを持ち歩くといった形より、ウェアラブルなデバイスを使い、ハンズフリーで情報やマニュアルにアクセスできるほうが自然です。そこで、まずは“スマートグラスをメインとしたソリューション”をつくることにしました。タブレットやスマートウォッチでもUbimaxのソリューションは利用可能ですが、スマートグラスが一番真価を発揮すると思います。日本の企業にも、こうしたARの便利さを伝えたいと考えています。

――Ubimaxは2011年創業で、製品を市場に投入したのが2014年とのことですが、日本への進出はいつ頃から意識していたのでしょうか?

Ubimaxの沿革

ストッカー:日本市場は魅力的ですが、参入障壁がとても高く、日本企業の協力がないと進出できないと考えていました。進出にあたっては強力なパートナーが必要だったんです。そこでアウトソーシングテクノロジー(以下OSTech)さんと、2年前(2018年)から協力関係を持ち日本進出を図ってきました。彼らと出会ったことで、進出のスピードが加速しましたね。

日本市場は、製造業がさかんな一方で、ドイツを含むヨーロッパやアメリカと似ているところもあったので、Ubimaxのソリューションが受け入れられると感じていました。ただ2年前の時点では、パートナーを探してはいたけれども、アメリカでの事業を優先したい時期だったので、急いで日本に進出する考えはありませんでした。

――日本への進出にあたり、もっとも高いハードルは何だと考えてますか?

ストッカー:日本進出は当初、本当に高いハードルを感じました。日本は非常にユニークなカルチャーを持っています。日本の慣習やビジネスを理解するには、日本で育っていないとなかなか難しいでしょう。関係性を重んじる国だと思います。それと、日本語という独自の言語を持っている点も障壁になるでしょう。個人的な感想ですが、かなりクローズドな市場だと思いました。

そうしたことを踏まえ、OSTechさんという信頼できるパートナーを得たことで、日本進出の目途が立ちました。多くのパートナーと組むより、信頼できる少数のパートナーと協力体制をつくっていこうと考えています。

もちろん日本の企業と直接ビジネスするという選択肢もありました。ただ特定ベンダーと組んでしまうと、そこのスマートグラスだけを扱う形になる。ハードウェアを固定せず、顧客企業にあったソリューションを提案できるようにもっていきたいと考えました。

日本でも4つのソリューションすべてを展開

――Ubimaxのソリューションは「X-PICK」「X-MAKE」「X-INSPECT」「X-ASSIST」の4つで構成されていますが、どのソリューションがとくに日本では受け入れられると考えますか?

ストッカー:日本でもこの4つのサービスすべてを提供する方針です。ただ「X-MAKE」は製造の深い部分で使われる性質上、ほかより遅れての展開になると思います。展開の順番でいえば、まず物流の現場で使われる「X-PICK」から始めて、その次に品質検査などを受け持つ「X-MAKE」が導入されるイメージですね。「X-INSPECT」「X-ASSIST」は、ステップバイステップで指示を伝える保守やサービスの部門で使われるので、並行して導入されるでしょう。

「XPICK」「XMAKE」「XINSPECT」「XASSIST」の4つのソリューションを日本でも提供

――Ubimaxのソリューションは、日本のどんな課題にマッチするとお考えですか?

ストッカー:日本の状況を考えると、まず高齢化社会になっていることがあげられます。企業内でもさまざまな熟練者がいるわけですが、彼らがリタイアする前に、その知見をくみ取りデジタルに落とし込んで記録しておくことが、Ubimaxなら可能です。さらにリタイア後であっても、現場の人間にリモート支援を行う「X-ASSIST」を使えば、熟練者が要所要所で、自宅のリビングルームから通話や指示することもできるでしょう。そうしたノウハウの伝承や記録も、Ubimaxのソリューションなら支援できるのです。これは日本の現状に非常に則していると思います。

あるいは、人によって作業工程がバラバラというケースもあります。Aさんはこういうやり方、Bさんはこういうやり方……そういった状態を標準化して効率的にするため、SOP(Standard Operating Procedures:標準作業手順書)をしっかりつくるという場合にも、Ubimaxのソリューションが利用できるでしょう。

Ubimaxのソリューションでは、ビジュアルプログラミングで作業フローを構築できる

話がもどりますが、日本は高齢化社会が進むことで、今後海外からの労働力が流入してくると考えます。そうすると外国の方にもスキルを伝承することが必要になる。日本語だけでなく他言語も使って、オペレーションを指示できることもUbimaxの特徴です。

Ubimax共同創業者のパーシー・ストッカー氏

――いくつかの企業とコンタクトしたかと思いますが、感触はいかがでしたか?

ストッカー:さまざまな企業が、最先端のコンビネーションに非常にエキサイトしてくれました。過去のスマートグラスは貧弱なものでしたがハードウェアが向上し、ソフトウェア技術も成熟したことで、非常に有用な製品に変わりました。

私たちのソリューションは2014年から提供していますが、1、2年前の時点でもスマートグラス(ハードウェア)は、まだ準備が整っていない段階でした。選択肢も少なく、満足のいく製品は数台に限られていました。ソリューション(ソフトウェア)は出来上がっているのに、適合するハードウェアがないため、市場をどうやって拡げていくのか悩みました。それが、この1、2年ですごく良くなってきた! スマートグラスのラインナップも増加した。やっとUbimaxの真価を見せられるタイミングになったと思っています。

Ubimaxのソリューションの画面例

――登壇された「ARソリューションの最新動向セミナー」では、デモを拝見しましたが、ドラゴンボールのスカウターの世界が現実化したようなサービスですよね。私は現場作業者ではありませんが、先進的かつ有用なサービスだと驚きました。

セミナーで熱く語るストッカー氏

まずは指標となる顧客開拓を目指す

――日本の企業では、どういった現場への導入を想定していますか?

ストッカー:ひとつはグローバルに進出している製造業、たとえば大手自動車メーカーです。もうひとつは“隠れたチャンピオン”と呼んでいますが、中小企業であっても、ある領域で強い製品・サービスをもっているような企業です。日本はとくに隠れたチャンピオンが多いと思います。あと導入済みの日本企業としては、リコーがオランダでUbimaxソリューションを使っていますので、本国でも導入をお勧めしたいと考えています。

そのほかでは少しレアケースですが、鉄道車両の製造会社を想定しています。ドイツではシーメンスがUbimaxソリューションを導入していますが、日本にも鉄道車両の製造会社があり、海外にも輸出を行っています。鉄道車両をつくっている企業は、世界でもそれほど多くありません。自動車にしても鉄道車両にしても、製造やメンテナンスの現場は海外工場だったりします。そこでは必ずコミュニケーションの問題が発生する。また日本の現場のノウハウをいかに海外に移管するかという課題も出てくる。

そうした現場でUbimaxソリューションは役に立つと思います。我が社が日本を起点にして海外に拡がっていく、という図式を期待しています。先ほど例にあげたドイツでは、メキシコに工場があり、そこでUbimaxのソリューションが使われています。日本企業でもアジアや南米に工場を持っているケースはたくさんあると思います。

――今回の日本進出について、どういった目標やゴールを目指していますか?

ストッカー:2020年は重要な年と考えていて、まずは事例をつくることを重視しています。“指標(リファレンス)となるような顧客企業”の開拓が大切ですね。よく知られているブランドをもっている企業が望ましいでしょう。日本の場合、先行事例を見て「我が社でも」と考えて導入するケースが多い。現在350以上の顧客企業がUbimaxのソリューションを利用していますが、このなかに日本企業を組み込みたい。ドイツ株価指標(DAX)の上位30社では、そのうち60%の企業がUbimaxのソリューションを使っています。日本でも同様に、日経500種平均株価の上位企業に導入してもらえるよう活動します。

懸念していることとしては、日本企業のスピード感ですね。他国に比べると、導入に時間がかかるケースもあるため、ARの時代に追いつけないまま、日本だけ取り残されてしまうという状況を心配しています。

いずれにせよ、Ubimaxの日本進出は“聖杯=最終的なゴール”を求める過程のひとつです。たとえばAIの導入なども視野に入れていますが、日本でも海外でもマイルストーンとなる目標を着実に実現させていきたいと考えています。

――日本の経営者と現場作業者に向けて、メッセージをお願いします。

ストッカー:経営者はトップダウンで進めていくことが重要です。Ubimaxの最初の顧客であるダイムラーやDHLは、経営者がテクノロジーの重要性を理解していました。6年前の時点で始めたことが、大きなアドバンテージとなっています。そしてこの優位性は、毎年どんどん膨らんでいます。

“新しいテクノロジーを早く採り入れすぎると、ミスコンセプション(間違った思い込み)が発生する”という人もいますが、それは本質ではありません。顧客企業であるダイムラーやDHL、BMWやコカ・コーラなどは、すでにスタンダードなプロセスを構築しており、あとは展開していくだけという段階です。ARの時代がスタートしている以上、より早い意志決定が重要なのです。

そして現場作業者は、テクノロジーによってさらにハッピーになれます。ワークバランスが改善され、仕事の精度も向上する。こういうテクノロジーを導入する企業はよりアジャイル(機敏)になっていく。変化に対しても適合しやすくなるでしょう。

マーク・トウェインの言葉に「先に進むための秘訣は、先に始めること」というものがあります。変革に成功するには、ほかに先んじて取り組む必要があるでしょう。エグゼクティブは大きな変革を目指しがちですが、小さな部分から適合させていくアプローチが大切です。現実的な範囲で今すぐに始めること、迅速に効果検証して拡大すること、大きく考え企業を変革することを目指してください。Ubimaxはそのお手伝いをします。

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【パーシー・ストッカー(Percy Stocker)氏のプロフィール】

ミュンヘン工科大学、シンガポール国立大学の修士課程、Arther D Littleでの戦略コンサルティングの経験を経て、Ubimax Inc.を共同設立。現在は米Ubimax CEOとして、Ubimaxの北米・中米・南米での事業活動を統括する。

彼のリーダーシップのもとで、アメリカとメキシコのUbimax子会社は、大企業や中規模の企業を支援する産業用ARソリューションを展開。技術的側面とビジネス的側面の両方から最適なソリューションを顧客に提供している。

インタビュー取材日:2020年2月6日

インタビュー場所:丸の内トラストタワー(OSTech会議室)

インタビュアー、撮影:冨岡晶

所属組織、業務内容、写真、発表内容は取材当時のものです。

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